A:石緑の魔道士 マーベリー
「ワンダラーパレス」の探索に向かったまま、行方知れずになったララフェル族の呪術士がいた。
その冒険者の名は「マルタ・ノルタ」
マルタと同じ帽子を被った奇妙なトンベリが、ブロンズレイクの周辺に姿を現すようになったのは、それからだ。怨みを冒険者にぶつける、そのトンベリは何者なのだろうな?
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
当然ながら幽体には物質的な肉体はない。物質的な肉体は腐り、分解され、骨だけが残る。だが魂とか思念と呼ばれるものは活動を止めた肉体とのつながりが途切れ、解き放たれる。それが幽体と呼ばれるものの正体とされる。幽体の姿を形作るのはその幽体の持つ潜在的な記憶による自己の姿なのだという。
今やエオルゼアでは通説となったこの学説の根拠の1つとなった事例が高地ラノシアにある。
高地ラノシアには古代都市「ニーム」時代の遺跡があちらこちらに残っている。中でも有名なものに石緑湖にそそり立つ第五星暦時代の神殿遺跡「ワンダラーパレス」がある。そこに祀られているのは、1500年以上前に栄えた古代都市「ニーム」の守護神旅神「オシュオン」、またの呼び名を放浪神「ワンダラー」であることがワンダラーパレスと呼ばれる由縁である。
約1500年前のある年、1隻の交易船が運んだ積荷がラノシアに奇病を持ち込んだ。この奇病にかかると徐々に耳や鼻が壊死し、肉が腐って削げ落ち、同時に全身の筋肉が強烈に萎縮、組織が弱くなった骨格は耐えきれず全身の骨を砕く激痛を伴いながら四肢が縮まってしまう。その後、長い年月をかけ骨も筋肉もその状態に適応し、骨折は歪に安定した形で再生し、筋肉の痛みもなくなり動くこともできるようにはなるが、異形となったその外見は生涯元に戻ることはない。所謂トンベリと化してしまう。この奇病は次々と伝染したため感染者は各地域で隔離され、人々は醜い姿になった患者たちを「魔物だ、悪鬼だ」といって迫害したという。
そして、奇病を克服することが出来なかった人類は最終手段として、ラノシア最大の患者の隔離施設となっていた「ワンダラーパレス」に患者を幽閉し、患者ごと封印を施し湖へと沈めることで厄災に蓋をした。患者たちの恨みはいかほどのものだっただろうか。
それから1500年経ち、第七霊災や蛮神タイタンによる地盤への干渉の影響を受け、ブロンズレイクの街お地盤は激しく沈下し、それに伴い湖の水が抜けたことで再び「ワンダラーパレス」はその姿を水中から現した。
今でこそ文献が発見され沈められた理由やその歴史が判明しているが、神殿が姿を現した当時は色々な噂や憶測が飛び交い、古代都市ニームの財宝で一攫千金することを夢見てワンダラーパレスに挑む者が後を絶たなかった。
そんな者たちの中にマルタ・ノルタというララフェル族の男がいた。呪術を極めんと野心を燃やす彼は皆が金銀財宝に目を奪われる中、彼はまだ誰も見たことがない未知の魔法や魔導書を求めてワンダラーパレスへと足を踏み入れた。彼がどの程度ワンダラーパレスを踏破したものなのか、首尾よく未知の魔導書を発見できたのかは分かっていない。何故ならば、マルタ・ノルタはワンダラーパレスから二度と戻ってくることがなかったからだ。
彼がワンダラーパレスで行方不明になって半年が過ぎた頃、湖の上をフラフラと歩くマルタ・ノルタの姿が目撃された。ワンダーパレスに踏み入れた時の姿のまま、愛用の帽子をかぶり、ランタンを片手に虚ろな表情で湖面をフラフラ移動していたのだという。その後も彼の姿はワンダーパレスの近くで何度も何度も目撃されているが、長い年月を重ねるごとに彼のその姿は少しづつ変化していっていた。
恐らくは幽体に残る自我や記憶が薄れ、曖昧になっていったのだろう。そして記憶の中の自分と他の者の境界が薄れていき、最終的に強く記憶に残ったのは絶命の瞬間に目にしたであろう自分を殺害したトンベリと呼ばれる奇病患者の姿だった。
更に年月を重ねた今、さらに記憶の喪失が進んだのか、マルタ・ノルタは巨大なトンベリの姿になった。彼がマルタ・ノルタであることを示す物は今も頭上に乗る愛用の帽子だけである。